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ドクロが見えますか?

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本書の冒頭で、スラヴォイ・ジジェクという哲学者に登場してもらいました。

https://www.youtube.com/watch?v=zieP72P8ehM より

彼は2000年代に、世界で最も注目されている哲学者となりました。「知識人のロックスター」のあだ名で多くの新聞・雑誌で紹介され、哲学に関心がない人の間でも人気になりました。多くの若者たちが、ジジェクの影響で哲学書を読むようになりました。インターネットで検索すると、ジジェクの講演会、インタビュー、対談が数え切れないほど表示されます。しかし、ジジェクを知る人たちは、彼が「知識人のロックスター」になると、想像もしていなかったそうです。二十冊以上の哲学、映画、政治、などについての本を出版しましたが、大部分は難読です。ヘーゲルら理解が難しい哲学者や、ラカンら精神分析家を取り上げているからです。しかし、それらの作品には、従来の常識を破る考え方や、哲学と日常生活や大衆文化を結びつけるヒントが示されています。

そんなジジェクは、『斜めから見る』でこんなことを言っています。

「ホルバインの『大使たち』の細長い染みは、私の視野の調和を乱す」

『大使たち』は、ドイツの画家、ハンス・ホルバインによって1533年に描かれた絵です。この絵、日本ではあまり知られていません。が、哲学者たちは、ほぼ全員、知っていることでしょう。ルノアールやモネの絵がハートを揺り動かす一方で、『大使たち』は頭を揺さぶります。「見るとはどういうことか」を考えさせる作品だからです。

この絵はまず、堂々たる二人の紳士に注目させます。そして、彼らが権力者であることを示す小道具が、絵全体に配置されています。二人はそれぞれが、世俗と教会の両方で揺るぎない権力と地位を確立しているのです。

さて、これら表の仕掛けは、私たちが「見るべきもの」を誘導しています。しかし、これだけでは頭への衝撃は不十分です。ホルバインの演出した違和感は、まったく別のところにあるんです。大小様々な裏の仕掛けがありますが、中でも最大の違和感は、真ん中下部、床の上に浮かぶ正体不明の物体です。この正体を見破るのはなかなか難しい。なぜなら「斜め下から」この絵を見なければならないからです。

正体はドクロなんです。